Nipponの表象

昭和戦前期・戦後期の写真・デザイン・映画をテーマに書いてます

1964年東京オリンピック前の風景:「ここにあなたは住んでいる」展と写真集『東京』

戦前に対外文化宣伝グラフ誌『NIPPON』を発行した名取洋之助は、戦後、かつての仲間たちに「日本の『LIFE』を作ろう」と呼びかけ、写真による総合雑誌『週刊サンニュース』を発行しました。

戦後の名取の仕事としては、他に『岩波写真文庫』シリーズがあります。

これは、文化・伝統・風俗・科学・自然など一冊ごとにテーマに変えたポケットサイズの解説付きミニ写真集で、その目新しさと手軽さで大いに売れ、他社から類似書籍が発売されるほど成功しました。

名取は1962年に52歳(!)で亡くなったので、60年代以降の高度経済成長期の日本を見ることはありませんでした。わずか二年後の東京オリンピックさえ目にすることなく…。

今回は、名取が編集した、東京オリンピック前の東京の姿を集めた写真集『東京』(朝日新聞社、1961年)を紹介します。

 

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この写真集に興味を持ったのは、1964年の東京オリンピック開催を見込んでの海外向けの‟東京キャンペーン”の一環として制作されたのかと、当初考えたからです。

しかし調べてみてもそうした話はとくになく、見事にあてが外れましたが(汗)、それでもこの本が発売される前に、同じ写真を使った写真展が開催されていることがわかりました。

それが、「ここにあなたは住んでいる」展(1960年)です。

 

この写真展は日本写真協会発足十周年を記念して開かれたもので、大都会・東京の姿を多角的に視覚化して見せようという趣旨でした。会員による約400点ほどの写真が集められました。特徴的なのは、複数の写真家によるテーマごとの組み写真形式になっているところです。

 

実際の展示がどのような構成になのかはよく分かりませんが、どうやら今回の展覧会に合わせて新作を撮り下ろしたというよりは、会員のこれまでの作品を「サラリーマン」「子供たち」 「国会」などテーマごとに集めて展示したようです。

戦後の闇市を写した作品も少しありますが、どちらかといえば都心のビル街や人の群れ、鉄筋作りのアパート生活、車の渋滞など、復興期のエネルギーや新しい風俗を捉えた写真が多い印象です。一方で水上生活者やバラック住宅など、繁栄から取り残された人々の姿も捉えています。

現在からみると1950年代の東京の姿を知ることができる面白い写真がたくさんあります。しかし出来合いの写真の寄せ集めには無理があったようで、当時の展覧会評は「率直に言って期待外れ」「いたずらに数多くの写真が羅列されているだけ」などと低評価でした。

 

その評判の良くなかった展覧会の写真をなぜ翌年、わざわざ写真集に?とも思いますが、写真集のほうは組み写真ごとに梶谷善久の短文も付けられ、装幀は山城隆一、編集は名取なのでそんなに悪くありません。

むしろ山城の装幀した表紙など、現在見てもかっこいいと思います。

 

展覧会評では「東京のPR写真にすぎない」と酷評された作品群ですが、戦前の国際文化振興会の対外宣伝写真(KBS.PHOTO)とはかなりタイプが異なります。

国家宣伝という立場上、KBSフォトの場合は「貧しさ」を写すことは絶対的にタブーでした。「貧しさ」がテーマでなくとも、画面内にみすぼらしいものが写り込んでいるだけでも駄目。学生が腰から手ぬぐいをぶら下げていたり、老人が下着のシャツ姿でくつろいでいるようなものもNG。国際文化振興会(以下KBS)から委託を受けた写真家たちは、KBS側からこうした細かいクレームがしょっちゅう付けられていたようで、そのうちの一人である木村伊兵衛など相当怒っていたようです。

 その時代からわずか15年後の日本では、これほど自由に伸び伸びと写真を撮り、発表することが出来たということは、よく考えるともの凄いパラダイムの転換ですね。

 

ただ写真のスタイルについては、実は私は戦前のKBSフォトの方が好きだったりします。

その頃の報道写真は、1930年代のレンガー・パッチュやパウル・ヴォルフの写真を手本にしたり、レアル・フォトの手法に多くを学んで撮られているので、とにかく画面の構成がビシッと決まっていて美しいです。

ヒトもモノも画面を構成するものの一つに過ぎない、という非情のスタンスで撮られているので、人間味はありませんが、デザインとして美しい。

この「美しさ」が、実は危険なクセモノでもあるのですが…。

 

写真集『東京』では、工場を写した作品にのみ、その名残りを見ることができます。

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