Nipponの表象

昭和戦前期・戦後期の写真・デザイン・映画をテーマに書いてます

戦時下の「観光日本」:サンフランシスコ万博日本館〈婦人群像〉にみるキッチュな‟日本趣味”

昨年、アメリカのサンフランシスコ市の中華街にあるセント・メリーズ公園に、中国系米国人によって〈慰安婦像〉が設置されたとのニュースがありました。

この〈慰安婦像〉の映像をテレビで見た時、私には「あれ、なんかこれ見覚えあるな…」という既視感がありました。もちろん、私はその〈慰安婦像〉を見たのはこれが初めてです。

その像は、背中合わせに立った三人の女性像から成っていて、それぞれ中国・韓国・フィリピンの慰安婦を象徴しているようです。

私が既視感があったのは、“三人の女性が背中合わせに立っている”というその構図と、“それぞれが各国を象徴している”というそのコンセプトでした。

 

で、その既視感の源をよくよく考えてみると、それは1939年のサンフランシスコ万博日本館に装飾として設置された〈婦人群像〉でした。

 

f:id:design-photo-film:20180531131922j:plain

こちらは「日本・満洲・朝鮮」の女性像です。背をむけ合った三体が手をつないでいるポーズは一緒。ただし、〈慰安婦像〉の方は“苦しみ”を表現しているので表情は暗く、うつむき加減です。

こちらは、写真がはっきりしないので表情までは分かりません。

ご覧のとおり、ハリボテ感が強いというか、マネキン風です。着色もされているように見えます。

 

なぜこんな像を置いてたのかって?

これもまた“ビジット・ジャパン”、観光キャンペーンのためなのです。

この像が置かれていた場所は、日本館の中の「観光部」というセクションでした。実はサンフランシスコ万博日本館の展示テーマは「観光」でした。日本はすでに日中戦争に突入していましたが、外貨の獲得手段として輸出と観光に力を入れていました。

 

f:id:design-photo-film:20180531134338j:plain

こちらの写真は、観光部の全景。

観光部の目的は、『紐育金門万国博覧会政府参同事務報告書』によれば、「日(朝鮮及台湾を含む)満両国の観光「ルート」、風物、産業、文化等を紹介宣伝する」ことでした。

 

〈婦人群像〉の背後にある大地図に注目。

この壁画は「日満観光「ルート」を示す豪華なる電光飾を施したる大地図」とのことです。当時の日本の占領・植民地が観光ルートに入っています。

 

ちなみに、中央の〈婦人群像〉は「日、満、鮮の協力と和平を表象する」ものだそうで…。像が置かれた池には、錦鯉が放たれていたようです。そして両脇に置かれた狛犬の像の口からは噴水が噴き出ていたとか。なんか、キッチュですねえ。

 

この時代、欧米人に対して日本をアピールしようとすると、どうしてもやたら“日本趣味”を強調することになります。そしてそれが往々にして、キッチュになってしまうのです。

その例をもう一つあげます。

 

f:id:design-photo-film:20180531140657j:plain

これは1939年ニューヨーク万博のオフィシャル・ガイドブックに掲載された日本館の広告です。

 

神明造の建物、日本庭園、ウネウネ曲がりくねった松、そして芸者風のキモノ女性と、いわゆる“日本趣味”をこれでもかと言わんばかりに詰め込んでいます。その結果、1939年当時の日本の現実とはかけ離れた“シャングリラ”みたいな世界になってます。

「A charming bit of Japan to delight you(楽しめる魅力的な日本)」と題されたこの広告にどんなキャッチーな煽り文句が書かれているかというとーーー

 

あなたが見るものはまるで違う!

日本館を訪れ、日本の繊細な美しさを"満喫"しましょう。日本の多様な風景を象徴するユニークな庭園でしばらくお休みください。

紅白そして金色で古代の神社を模した日本館には、精巧な美術品や魅力的な展示品が収蔵されています。

万博の現代的な世界があなたを当惑させた時には、日本館を思い出して…そして楽しんで…!

 

女性が手招きで誘ってるような文章です(単に私の翻訳のせいかもしれませんが)。

 

私が持っているオフィシャル・ガイドブック(おそらく他にも何種類か出版されている)に広告を出している国は、日本とソヴィエト連邦だけです。

ソヴィエト連邦の広告はこれ。

 

f:id:design-photo-film:20180531145114j:plain

見開きで2ページ分とっているので、たぶんソヴィエト連邦の方が掲載料は多く支払っているでしょう。

五芒星を掲げた男性労働者像の横には、ソヴィエト連邦共和国を構成する11のソヴィエト共和国の名前が並んでいます。

その下には、「ソヴィエトパビリオンを訪れ、ソヴィエト連邦共和国の1億7千万人の日常生活、仕事、そして世界初の社会主義国での成果について知ろう」という文章があります。

これはこれであまりにも直接的な共産主義のプロパガンダ臭がして、見に行くのがちょっと怖くなる感じです。

 

政治や思想的なものを一切排除して、ひたすら“エキゾチック・ジャパン”を発信したニューヨーク万博日本館で一番人気のあった展示品は、ミキモト製作の〈自由の鐘〉。これはアメリカの〈Liberty Bell〉のレプリカに、真珠を1万1600個、ダイヤモンドを366個貼り付けたものです。この豪華さが現地でも報道され、ショーケースの前は押すな押すなの人だかりだったとか。

これもキッチュと言ったら、怒られますかね?

 

ニューヨーク万博日本館には、他にも〈宝船に乗った日米の女性像〉なんてさらに面白いものも展示されていました。

そのことについては、また別の機会にーーー。 

 

国際観光局はこんな英文ガイドブックも発行していました。

線路は続くよ、満洲まで…―昭和戦前期の鉄道地図と「観光日本」― - Nipponの表象