Nipponの表象

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国際観光局の南方向け映画政策:何を見せ、何を見せないか・・・それが問題だ(其の2)

(其の1)からの続き。

国際観光局の南方向け映画製作:何を見せ、何を見せないか・・・それが問題だ(其の1) - Nipponの表象

 

各国にどのような映画を見せるべきか。それを正しく判断するためには、まずその国の国民性や民族性を理解する必要があります。

『対外宣伝の研究』(国際観光協会発行・昭和17年11月)には、国別の分析と宣伝方針が述べられています。一部をかいつまんで紹介します。

 

①中国

自尊心が高く、個人主義が強い。日本人とは国家観や世界観を異にするため、日本の主義主張に簡単には共鳴を得難い。しかし経済観念はきわめて発達しているので、日中間の交易が中国経済の振興に影響することや日本の経済的発達などを宣伝するべき。また中国人は平和と平安を希求する念が強い。しかし戦争は長期にわたるので、時々適度な慰安を与えつつ、「和平楽土の恒久的建設」のためには長期の試練を耐える必要があることを啓発すべし。

中国向けに製作された映画(1937~1942年):「形形色色的日本」、「東京交響楽」、「東京ー北京」、「東瀛国情視察記」、「日本見聞記」、「躍進の日本」、「日本的女性」、「雪に集ふ」、「ラジオ東京」、「日本の鉄道」、「家庭生活」、「今日の日本」

 

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『雪に集ふ』(1942年)より。

中国および南方占領地に対する宣伝映画。

南方留学生と観光宣伝映画:国際観光局製作『雪に集ふ』(1942年)が宣伝したいコト(其の1) - Nipponの表象

南方留学生と観光宣伝映画:国際観光局製作『雪に集ふ』(1942年)が宣伝したいコト(其の2) - Nipponの表象

 

②タイ

タイ族・華僑・マレー人・白人で構成されている。中国およびインド並に英米文化の影響を受けている。タイ人は独立自主に対する愛着心が深い。またタイ人は寛容性に富んでいるので、宣伝の浸透性が高いことが見込まれる。過去において英国の政治・経済・文化の影響が浸潤し、その残滓があるので、これを駆逐することが目下の要務である。最近、文化条例で無帽・裸足等の悪習を禁じる法令を発布したので、日本人の社会生活の不体裁や無作法を見せるような写真や映画は用いないよう注意すべし。

 

③仏領インドシナ

ベトナム人・カンボジア人・ラオス人・華僑・白人で構成されている。アジア人のアジア理念を露骨に表示しないようにする(仏印当局が現地住民の政府離反を警戒しているため)。フランス人に対しては、日仏文化の交流を促進し、日仏協調精神を鼓吹する。全体の七割を占めるベトナム人は、他の南方地域住民に比べ、比較的知性に富み、向学心を持っているので、日本の国情の紹介や日本語学修を勧めることは有効。

 

さて、ここから日本の占領地だった地域に対する分析と宣伝方針についてです。フィリピン・マレー半島・ビルマ・ジャワ等の南方諸国に対する啓発宣伝は、上記の三国に比べるとかなり強気の“上から目線”で行われました。

 この地域に対しては、「日本国民は指導者であり、彼らは被指導民族である」という立場で、ゴリゴリいきます。

しかし娯楽を一切禁じることは、かえって南方地域住民の日本に対する好意や協力を失わせる怖れがあると考えたようです。したがって国策映画以外にも娯楽映画も上映する方針にしたりと、意外に気は遣っていたようです。

 

④フィリピン

 日本に占領される以前、約40年間アメリカの植民地であったため、アメリカ文化の影響を強く受けている。アメリカの宣伝の影響も受けているが、反日意識は稀薄。中流階級が少なく、上流階級と下層階級が多いという社会的特徴がある。映画・音楽・舞踏・拳闘・闘鶏・野球等、刹那的なものを愛好する気質。映画は南方中随一の普及率なので、映画宣伝交錯は他の何ものよりも効果が高い。

 

⑤マレー

英国が多年にわたり支配してきた地域であるため、英国の影響力が浸透して根づよい。速やかに影響を排する必要があるので、英国の没落を強調し、日本の理念・軍備・生産力・文化等が英国よりも優れていることを宣伝すべし。漸次英語を排して、急速に日本語を普及させること。また、マレー人・華僑・インド人によって構成されているので、民族別の方策が必要。

 

対マレー人宣伝方策…

マレー人は英国の政策の結果固有の文化をほとんど喪失しているため、彼ら独自の民族文化の復興を援助すると同時に、日本文化を流入することが比較的容易である。彼らの宗教(イスラム教)に抵触しないように注意しつつ、皇室の尊厳や日本の国体など精神的なものも併せて日本の優秀性を顕示すること。映画は字幕よりアナウンスを用い、かつ豊富に音楽を入れること。

対インド人宣伝方策…

政治宣伝を加味した国情宣伝を行うこと。すなわち、日本はインドの独立を希望すること、この希望にはアジア人のアジア建設の理想以外何ら他意なきことを繰り返し表明すること。そして日本の偉大さとアジアにおける指導的地位を浸透させること。

対華僑宣伝方策…

日本と協力する以外、彼らの経済的繁栄の道がないことを自覚させる。もっぱら日本の強大な国力を強調して宣伝すること。

 

⑥ビルマ

半世紀にわたる英国の圧政下に置かれた結果、対英反感が熾烈であっただけに、日本への信頼と協力の熱意においては南方諸民族中でもっとも純真かつ熱烈。自尊心が強い民族なので、彼らの自尊心を傷つけないよう細心の注意が必要。日本の国民性や仏教国であることなど、ビルマ人との相似点を説明して親近感や信頼感を与えること。ビルマ人はむしろ“女尊男卑”の傾向があるので、女性の社会生活上の地位は非常に重要である。したがってビルマ女性に対しては、日本女性の優れた特質や女性の生活ぶりを写真等を用いて示すことも効果的。

 

⑦ジャワ

ジャワ人は300年にわたりオランダの統治下にあったが日本の占領後は日本に対して信頼感を置いている。完全な“日本人化”に導くために、残存するオランダおよび英国の影響を完全に駆逐する必要がある。オランダ語の使用を排除し日本語の普及に努めること。また日本人の勤勉性や秩序ある行動を写真や映画等で示して、勤労の尊さを知らしめること。ジャワ人は音楽好きで、かつ彼らの音楽は日本の音楽と類似点があるので、映画にも豊富に音楽を挿入する。緩調のメロディーを好むことも特に考慮に入れる必要がある。熱心なイスラム教徒なので、仏像を示したり、彼らの不浄とする左手で物を食べる写真を出したりすることは特に注意すべきである。

 

以上、日本の宣伝方策について、ざっくりと抜粋してみました。…ここまで頑張って読んだ貴方、ウンザリしましたか?

 

まあやはり、日本も必死だったのです。

民族の歴史や民族的特性、人種構成などを詳しく調査し、試行錯誤していたことが窺えます。占領地・植民地をうまく統治して日本の戦時下のイデオロギーをすんなり移植するためには、まず「日本がいかに優れた国であるか」というイメージを現地住民に植え付けなければなりません。

 

さて、次の記事では、国際観光局(国際観光協会)が実際に南方地域向け宣伝映画を作っていく際に、どのような工夫や注意点を留意していたかということについて見ていきます。また、国際観光局製作の宣伝映画について、多少なりとも内容が分かるものについて紹介します。

 

(其の3)へ続く。 

国際観光局の南方向け映画政策:何を見せ、何を見せないか・・・それが問題だ(其の3) - Nipponの表象